いまむうブログ

ほぼノンフィクション。面白さは保証できません。

#3 弟と縁が切れた日

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11:30。スタバ。天神パルコ店。ゴンチャというタピオカ屋さんの面接までの時間を潰しに来た。注文したのは抹茶ラテ、オールミルク。僕はここ10年これしか飲まない。東京でもインドでもアメリカでも何も考えずコレを注文する。理由はあったんだろうが、今になってはそれも忘れたし、当たり前の習慣になってしまった。歯磨きで左上奥歯から磨き始めるルーティンと同じ感じだ。みんなにもそんな意味わからない決まりがあるんじゃなかろうか。

 


カウンターにはちゃきちゃきした社員と透明ピンクのサンバイザーをつけた小太りのおばちゃんと福岡美人の若いお姉ちゃん。

 


列に並んでいたら福岡美人がメニューを持ってきてくれたが、すでに決まっていることを伝え食い気味に断ってしまった。断った後に、素っ気なさすぎたなと反省した。彼女は自分の意思で僕を喜ばせようと、わざわざメニューをもって外に出てきてくれたのだ。メニューくらいもらって、笑顔でありがとうと言い、眺めるくらいできただろうよ。なんとも可愛くない30歳男だよ。最悪だよ。レジのピンクサンバイザーおばちゃんは手際が悪かった。Suicaで支払いを済ませたかったのだが、なんだか手こずっていた。僕はピンクサンバイザー越しに彼女の焦った表情を見ていた。別に怒ってるわけでも急いでいるわけでもなかったのだが、目線をどこにやっていいのか分からなかったのだ。脳みそは新しい情報にどうしても気がとられてしまう。ここでの新しい情報とは、ピンクのサンバイザーとおばちゃんの表情だった。ただそれだけのことだった。

 


福岡美人は「ただ今抹茶ラテ、オールミルクでお作りしておりまーす」と声を放射した。黄色いランプのお渡しエリアには僕と彼女しかいない。ただ、彼女の声は僕にではなく、空間に散らばった。そんな誰にも向けられていない声。僕と彼女の間には変な緊張感が流れた。ただ立っているしかなかった。彼女はトンとカップをテーブルにタップした。クリームを落ち着かせるためだろう。今度は僕に目線を合わせ、両手でカップを差し出した。早くもらいたいと、僕は右手を出してしまったが、彼女は手を離さず、何か商品名か何かを話している。内容なんか入っちゃ来ない。目線がガッチリと合ったままで、手を出してしまったものだから、手を出しっ放しのバカな男の出来上がりである。側から見たら変に移っただろう。まあ誰も見ちゃいないのだが。2秒くらいしたら彼女が手を離した。僕はありがとうと言い受け取った。彼女の目はキラキラ潤んで輝いていた。宮崎に住む従姉妹にソックリだった。なんか気まずかったが、あんなにキラキラとした働く姿をする人に久しぶりに会った。スタバには時々あんな人がいる。あんな人が増えたらいいのにと切に思いながら、抹茶を口に含んだ。

 


姪浜駅近くの弟のアパートに着いた。1K6畳。家賃3万。部屋は綺麗で、新品のクーラーがガンガン効いていた。台風一過の福岡はありえないくらい暑かった。湿気も申し分なし。敵ながら天晴れ。岩のようなスーツケースを引くだけで、汗が顎から滴ってきた。弟はTシャツに短パンで迎えてくれたが、明らかに様子がおかしかった。シャワーを浴び、再び出かけるために着替えた。スボンに片足を通した所で、弟が話しかけてきた。働きたいということだった。弟は精神的に弱く、仕事も長く続かなく、28歳になってもロクに働いていなかった。国から補助を受け生きるのが精一杯だった。働く気はないのだと思っていた僕は安心した。それならと、伸びていた髪を切りに行けばいい、今日明日にでも切ってこいと2000円を渡した。それがまずかった。弟は静かにキレた。干渉してくることに気が触ったのだ。その場はやり過ごし外出した。

 


天神に出てきたのはいいが、長文のLINEが入っていた。内容見る限り、完全に怒ってしまった。長い付き合いだから分かるが、もうこうなったら話し合いにはならない。用事を済ませ夜11時に姪浜に帰り、最寄りのローソンの駐車場で話すことになったが、まったく埒があかない。僕はもう泊まる気もなかったし、話は後日でよかった。ただ、その態度も弟には気に食わなかったようだ。じゃあ落ち着いて話そうということになり、姪浜の夜の町を散歩することになった。

 


弟の主張は干渉してくるなというのがメインだった。ただ色々質問もぶつけてくる。こちらはその質問に「俺だったら、〇〇するかな」という答え方をした。これも気に食わなかったようだ。弟と僕は違うのだから同じことはできない、という主旨でまた怒られた。それから3時間、全ての事に対して説教を食らう形になった。これには参った。もはや意味がわからなかった。コイツは病気なんだと確信した。もう何を言っても無駄だと悟った。

 


出て行くよといったら、それはしなくていい、泊まれといった。もう意味がわからない。頭もクラクラしてきたのでとりあえず寝た。朝になって牛丼にでも連れて行ってやろうと思ったが、そこでもいちいち兄貴のことが気にくわないようだった。怒って先に店を出て行ってしまった。弟の背中を追いかけ、距離を置いて歩いた。もう意味不明すぎて頭がおかしくなりそうだった。

 


家に着くと再び説教を食らった。もうコイツとは関わらない方が良いと思った。縁を切ろうと思った。家を出て、LINEをブロックした。

 


こんな弟の話なんて書くべきではない。共有するべきではない。そんなことはわかっている。言及しないことだってできたし、1行くらいで「喧嘩して追い出された」くらいで済ませても良かった。ただ、忘れてはいけない人生の瞬間だと思ったのだ。

 

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12:50。もう抹茶ラテはぬるくなってしまった。スタバの席を立ち、ゴンチャの面接会場へ向かっている。同じ建物のB2にあり、エレベーターですぐ目の前だ。計算通りにゴンチャのパルコ店に着いた。携帯がブルとした。

 


“3分後ゴンチャ大名店にて面接”

 


大名店?!今僕がいるのは天神パルコ店だよ!?

google先生によると徒歩で10分離れている所らしい。いきなり遅刻だ。メールを入れて、スーツケースを蹴って走り出した。