#2 天神地下街 ”バイト” 面接

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バイトの面接が終わった。タピオカ屋さんのバイト。チュンスイタンかチュンシュイタンかよくわからないが、面接中は社名を一度もハッキリと発音されることはなかった。今は地下鉄。弟の住む姪浜に向かっている。「メイノハマ」と読むらしい。ノて。福岡はとにかく読めない地名のオンパレードだ。

 


話は遡り。博多駅に到着した僕は、すぐさま地下鉄福岡空港行きに飛び乗った。決して飛行機に乗るわけではない。3駅先の天神へ向かうのだ。ホームや駅には人がありえないくらいごった返していた。山口県というど田舎に数日いただけで、人混みに圧倒されてしまう自分がいた。一息つく間も無く天神駅に着いたが、目的地の天神地下街というのがどこの出口から出ればいいか分からない。東口に適当に進んでみたが、改札の向こう側はただの通路になっている。踵を返して、案内板を探した。そこにも手がかりはなかった。出口がめちゃくちゃある事だけがわかった。地下街のデベロッパーはどこだよ?しっかり地下鉄と話して、全案内板にデカデカと「天神地下街」と書いてもらえよ。客呼ぶ気あんのか、バカチンちゃん!

 


当てずっぽが当たり、地下街に出れた。が、今度は春水堂がどこかわからない。google先生も地下の案内には弱い。色白ですらっとした福岡美人の案内嬢に聞くという結果になってしまった。なぜか目線を合わせてくれなかった。なんか変な空気になった。いや、それどころじゃない面接まであと4分。案内されたのは直進200メートル先。中々ギリギリだ。新幹線の中で証明写真を切っておくはずだったが、ブログ執筆に100%の時間を捧げてしまった。

 


人だかりができているのが遠目にも確認できた。チュンちゃんは超人気店なのだ。タピオカの人気はツイッターで見ていたが、本物の行列には少し興奮した。店の陰で美肌効果が施された30歳男の証明写真を1枚切り離した。ぎこちない笑顔をポッケにねじ込み、来店。

 


「こんにちは。本日面接予定の今村です。」

バイトちゃんたちは30坪程の狭い店内に7人くらいいて、忙しく働いている。レジ近くにいた数人がこちらに目線を配った。一瞬で品定めされたような感じがした。ただの気のせいだ。満面の笑みのバイトリーダーちゃんらしき人が慣れた感じで奥に通してくれた。

 


1畳ほどの極狭のスタッフルームに面接官がいた。人1人ギリギリ通れる通路が2-3歩分あり、奥にはデスクが置いてある。というか無理矢理ハマってあると言ったほうがいい。誇張じゃない。ほんとーに狭かった。30歳前後の茶髪ミドルの優しい笑顔の面接官。座ってくださいと言われた丸椅子に座ると、彼女と膝が当たるくらいだった。そのくらい狭かったのだ。おそらく人生で1番小さい事務所だと言っても過言ではない。今後もあの狭さにはお目にかかれないだろう。2人の顔の距離は130cm程だっただろう。相手の表情の変化は逐一わかった。逆もしかりで、全部がサトラレてしまった。

 


経歴や志望動機を聞かれた。昔バドミントンをやっていたことがなぜか1番盛り上がった。彼女は小学から大学までバドミントンをやっていたからだ。なぜかカットの打ち方の話までした。よくわからない。途中から彼女の身の上話になり、入社の経緯などを逆に質問する形になった。大学卒業後、カナダにワーホリに行き3年前から今の会社に入社。天神地下街の新店舗出店と同じ時期に店長に立候補し、店長として引っ張っている。

 


彼女の話し方には誇りを感じられた。春水堂は6年前から台湾から日本に上陸したこと、タピオカミルクブームの火付け役になったこと、ブームが終わった後にも中国茶としてのマーケットはキッチリ掴んでいることなど、すべてに自信というか王道の風格のようなものを纏っている。

 


「バイトでいいんですか?社員面接受けませんか?」面接の中盤に差し掛かったあたりに彼女が言った。えっ?と思ったが正直に話した。起業をしようとして、オペレーションを学ぶ(盗む)ためにバイトを短期間でやろうと思っていることだ。彼女はそれを否定しなかった。むしろ、社内には起業希望の人材ばかりであることを教えてくれた。正直に話してみるもんだなとホッとした。彼女は日本の社長に話を聞いてもらうことを勧めてくれた。日本の春水堂を運営する母体オアシスは元々は水道事業がメインの企業らしい。その社長は台湾を訪れた際、春水堂に出会い感動し、そのまま日本に輸入してしまった敏腕だ。社長は社員の話を何でも聞いてくれる世話好きな人でもあるようだ。そこまで話を聞いていたら、社員やバイトなどどうでもよかった。面白そうな人と会える。脳みそが喜んだ。社員面接を申し込んで店を後にした。少し流れが変わってきた。

 


姪浜駅の周りは殺風景で不動産屋が乱立し、居酒屋がチョロっとあった。弟が送ってくれた地図を頼りに重たいスーツケースを引いた。弟と落ち着いて話すのは4年ぶりだろうか。まあうまくいくだろうと考えていた自分が甘かった。最悪な夜を迎えることになるのだった。